離婚によるマンション売却と財産分与 |住宅ローンや税金、その他のリスクを解説

離婚によるマンション売却と財産分与 |住宅ローンや税金、その他のリスクを解説

離婚時の財産分与において、マンションの取り扱いには注意が必要です。

なぜなら、不動産は現金や有価証券とは違い価値が不明確なことが多く、売却するかしないかで財産分与の内容が大きく変わるからです。

さらに、マンションの売却を選択した場合であっても、住宅ローン残債の有無によって売却プランは大きく変わってしまいます。

そこで、この記事では離婚時にマンションを財産分与するケースにおいて、売却の是非や住宅ローン、税金、その他のリスクについて解説します。

目次

離婚時のマンション売却でかかる税金

離婚時にマンションを売却する場合、税金がかかる場合とかからない場合があるため、この章で詳しく解説します。

  • 譲渡所得税など通常のマンション売却でかかる税金
  • 財産分与で贈与税はかからない(例外あり)

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譲渡所得税など通常のマンション売却でかかる税金

通常、マンション自体を財産分与せず売却する場合には、次に挙げる税金がかかります。

税金の種類内容
印紙税マンションの売買契約に貼付する印紙の代金。印紙代は売買契約の代金によって変わる。
登録免許税等所有権移転や抵当権を抹消する際に支払う税金。
譲渡所得税マンション売却によって利益が出た場合に支払う税金。

印紙税は売買契約や贈与契約などの課税文書に対して課税され、印紙を契約書に貼付し消印することで納税したとみなされます。

また、印紙代以外にも売買によって所有権を移転するための登記や、抵当権を抹消する登記についても登録免許税が発生し、売却によって利益が出れば譲渡所得税が発生します。

このように、通常のマンション売却には様々な税金が発生することを知っておきましょう。

ただし、印紙税と登録免許税には軽減税率があり、譲渡所得税には軽減税率以外にも3,000万円まで課税額を控除できる制度があります。

これらの制度を利用する際には条件があるため、不動産会社にどのくらいの税金がかかるのかをあらかじめ質問しましょう。

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財産分与で贈与税はかからない(例外あり)

通常のマンションでは印紙税や譲渡所得税がかかってしまいますが、夫婦間で財産分与するのであれば、これらの税金はかかりません。

なぜなら、分与する財産はそもそも夫婦が協力して築いた財産となり、共有財産を分ける贈与となるからです。

ただし、半分以上の財産分与となる場合には贈与税がかかるケースがあり、さらに所有権移転の費用は免除できませんので、注意が必要です。

離婚時のマンション売却で財産を受け取る側にかかる税金

この章では、離婚時にマンションを売却した際に、財産を受け取る側にかかる税金について、解説します。

財産分与をマンション自体で行わず、売却した後の手残り額で財産分与するケースは多いですが、この方法では受け取る側に対し税金が発生することがあります。

そのため、どのようなケースで税金が発生するのかを、あらかじめ知っておく必要があるでしょう。

  • 不動産取得税
  • 贈与税

不動産取得税

マンションを売却せず、そのまま財産分与として譲渡する場合には、不動産取得税がかかるケースがあります。

たとえば共有名義のマンションを単有名義に変更する場合や、慰謝料としてマンションを譲渡するケースです。

これらのケースでは税務署から内容確認の連絡を受け、税申告を指示されることもあるため、注意しましょう。

贈与税

贈与税は通常、離婚時の財産分与には発生しません。

しかし、マンションの価値が財産分与額を大きく超える場合や、そもそも離婚が節税目的の偽装である場合には、贈与税がかかります。

たとえば、総資産額が5,000万円の場合、財産分与額は2,500万円ですが、マンションの価値が3,000万円の場合は500万円多く財産分与されることになるため、余剰分に対して課税されます。

また、妻にマンションを譲渡する際に発生する税金を減らすための偽装離婚だった場合、マンションの評価額全てに対して課税されます。

このように、離婚時の財産分与では通常かからない贈与税であっても、ケースによってはかかってしまうこともあるでしょう。

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離婚時のマンション売却で財産を引き渡す側にかかる税金

離婚時にマンションを売却し、手元に残った額を財産分与する際には、譲渡所得税を引き渡す側が支払うことになります。

譲渡所得税とは、マンションを売却することで売却益が出た場合に発生する税金で、課税額の計算は次の通りです。

【譲渡所得課税額の計算方法】
売却価格-売却にかかった諸費用-購入価格(取得費)-購入にかかった諸費用

たとえば本体価格5,000万円のマンションを諸費用200万円で購入し、売却価格6,500万円、諸費用100万円で売却した場合、課税額は次のようになります。

6,500万円-100万円-5,000万円-200万円=1,200万円

ただし、売却価格と購入価格は売買契約書、諸費用は領収書が価格の証明書となり、万が一購入時の契約書を紛失した場合には売却価格の5%が取得費となってしまいます。

この場合、前述した例では5,000万円の取得費は250万円となってしまい、課税額は5,950万円となります。

このことからも、譲渡所得税において所有の有無は非常に重要なポイントだといえるでしょう。

また、譲渡所得税は課税額に税率を掛け合わせることで算出できますが、税率は所有期間によって次のように変わります。

  • 所有年数が5年以下の場合:39.63%
  • 所有年数が5年を超える場合:20.315%

上記の通り、所有期間が5年を超えるかどうかが、大きなポイントになるでしょう。

離婚時のマンション売却で節税する5つの方法

離婚時にマンションを売却することで様々な税金が発生することが分かりましたが、うまく節税し財産分与額を増やす方法があります。

この章では財産分与をする上で利用できる節税方法について、解説します。

  • 現金化してから財産分与
  • 贈与税の配偶者控除の利用
  • 3,000万円の特別控除を利用
  • 軽減税率の特例を利用
  • 離婚後に元配偶者へ譲渡する

現金化してから財産分与

財産分与で贈与税がかかるのは、不動産や有価証券といった動産物です。

つまり、マンションを売却し現金化することで、贈与税を免税とすることができます。

また、こういった贈与税対策だけでなく、離婚時にマンションを売却することは財産分与自体をスムーズに進められるため、おすすめの方法といえます。

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贈与税の配偶者控除の利用

婚姻関係が20年以上ある夫婦間で贈与をする場合、居住用財産を購入するための贈与であれば2,000万円まで非課税とすることができます。

さらに、この控除に基礎控除の110万円を加えることで、合計2,110万円までを非課税で贈与が可能です。

ただし、この控除を利用するためには確定申告が必要となり、無申告の場合は贈与税が発生してしまうため、注意しましょう。

【参考記事】

No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁

3,000万円の特別控除を利用

マンションを売却し、前述した計算によって課税額がでた場合には譲渡所得税が発生しますが、居住用財産の売却であれば課税額を3,000万円まで控除することができます。

この特別控除は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と呼ばれ非常に節税効果が大きい制度ですが、適用条件があります。

この制度については以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてください。

【参考記事】

驚きの3000万円控除】マンション売却で知っておきたい条件は意外にも〇〇だった

軽減税率の特例を利用

譲渡所得税を軽減させる方法には、課税額を減らす3,000万円控除に加え、税率を軽減できる制度があります。

この制度は所有期間が10年を超えたタイミングで特定条件を満たす不動産を譲渡した場合に利用することができ、課税額が6,000万円以下の部分について税率を14.21%とすることができます。

こうした制度をうまく利用することで、譲渡所得税を大きく減らすことができるでしょう。

【参考記事】

No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁

離婚後に元配偶者へ譲渡する

3,000万円特別控除は非常に節税効果が高い制度ですが、夫婦間の譲渡は利用できません。

そこで、相手方にマンションを譲渡しその上で3,000万円特別控除を受けるためには、先に離婚するのがおすすめです。

こうすることで、3,000万円特別控除の利用要件である「売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。」という条件をクリアすることができます。

ただし、この制度を利用するためには他にも要件があるため、必ず事前に確認しましょう。

住宅ローンの残債がある離婚時のマンションの売却

マンションを売却する際には、住宅ローンの有無が重要なポイントになります。

なぜなら、住宅ローンが残っている状態はまだマンションに抵当権が設定されるため、金融機関の承諾なしには売却できないからです。

また、住宅ローン残債は売却価格にも大きな影響を及ぼし、住宅ローン残債よりも高い売却価格で売ることを「アンダーローン」、低い売却価格で売ることを「オーバーローン」と呼びます。

どちらの売却を選択するのかで注意点も変わるため、この章で詳しく解説します。

  • アンダーローンのマンションを売却する場合
  • オーバーローンのマンションを売却する場合

アンダーローンのマンションを売却する場合

アンダーローンは売却価格よりも住宅ローン残債が低くなるため、売却による手残り額で住宅ローン残債を完済することができます。

こうした特徴があることからアンダーローンは金融機関の承諾は得やすくなり、特に制限なくマンションの売却が可能となるでしょう。

なお、アンダーローンと住宅ローンを完済してマンションを売却する場合では、アンダーローンの方が団体信用生命保険の適用内という点で、有利です。

このことからも、アンダーローンで売却価格が相場から大きく逸脱していないのであれば、無理矢理完済せずに売却するのがおすすめです。

オーバーローンのマンションを売却する場合

オーバーローンはマンションを売却しても、手残り額だけでは住宅ローンを返済できない状態です。

この場合は不足分を何かの手段で資金調達するか、自己資金で補填する必要があります。

また、オーバーローンは相場よりも高い価格設定で売却する傾向にある一方、価格交渉を受けにくくなります。

このことからも、オーバーローンのマンション売却は販売が長期化することが多く、金融機関の承諾を得られない可能性も高くなるでしょう。

なお、マンション売却を検討した結果、どうしてもオーバーローンになってしまうのであれば、残債が減るまで売却を中止するのが、一般的な方法です。

しかし、住宅ローンの支払いが厳しい状況であればそれも難しく、八方塞がりになってしまいます。

そこで、オーバーローンでの売却が難しく、毎月の返済も厳しい状況であれば任意売却の相談を金融機関にしてみましょう。

そうすることで、現状を打開する方法を見つけられる可能性が高くなります。

離婚時にマンションを売却しない場合に抱えるリスク

離婚時に、マンションを売却するか残しておいたまま財産分与するのかを検討するケースがありますが、結論からいうとマンションの売却がおすすめです。

なぜなら、離婚時にマンションを売却しないままにしておくと、多くのリスクを抱えることになるからです。

この章では、離婚時にマンションを売却しないことでどのようなリスクが起き得るのかを、詳しく解説します。

  • 機会を逃して時間が経つほど売却しづらくなる
  • 住宅ローンの返済でトラブルが起きやすい
  • 財産分与の金額や方法が難しくなる

仲介と買取り、どちらが得?マンション売却時のメリット・デメリットを調査してみた結果…

機会を逃して時間が経つほど売却しづらくなる

離婚時には夫婦間での話し合いがスムーズにできないことが多く、タイミングを逃してしまうと売却方法や価格について、双方の合意が難しくなるでしょう。

この場合、マンションの名義が共有の場合であれば双方の合意なくしては売却できませんが、単独名義の場合は自由に売却できてしまい、財産分与額がイメージと異なるケースもあります。

こういったリスクを避けるためにも、離婚時には家庭裁判所に「処分禁止の仮処分」を申し立て、裁判所の許可を得られれば売却を防ぐことができます。

ただし、こういった財産分与に関する協議は離婚後から2年間と定められているため、それ以降は家庭裁判所に申し立てすることもできません。

つまり、離婚時にマンションを売却しないままにしておくと状況が悪化の一途を辿ってしまうことになり、その結果納得のいかない財産分与になるケースもあるでしょう。

住宅ローンの返済でトラブルが起きやすい

マンションを売却しないままどちらかが住む場合、住宅ローンの有無が重要なポイントになります。

住宅ローンが完済しているのであれば、マンションの名義変更やどちらかが居住を継続するといった方法を選択できます。

この場合、適正な財産分与になるのであれば、大きな問題にはならないでしょう。

しかし、住宅ローンが残っている状態で上記の選択をした場合、住宅ローンの滞納という大きなリスクを居住者が抱えることになります。

たとえば住宅ローン債務者がマンションを離れ、財産分与という形でマンションの居住を継続する場合、ローンの滞納によって強制退去となる可能性があります。

こういったリスクは、名義を居住している人に変更することで回避できますが、年収や勤続年数といった問題からうまく名義変更できないケースも多いです。

つまり、住宅ローンが残っていることで、その後の人生を大きく左右するリスクを抱えることになる、といえます。

財産分与の金額や方法が難しくなる

一般的に財産分与の割合は50%となるため、マンションに住むのであればそれに見合った財産を譲渡しなければなりません。

しかし、家庭の財産においてマンションが最も大きな割合を占めることが多く、実際に全財産の半分を譲渡するのは難しいケースがほとんどです。

さらに、マンションを実際に売却していないため、そもそも50%の基準額が不透明なまま財産分与することになります。

そのため、離婚協議がまとまらず長期化することもあり、まとめるためには不動産鑑定士にマンション鑑定を依頼するなどの費用負担が必要になるでしょう。

つまり、マンションを売却せずに財産分与する場合には、様々なリスクを抱えることになるため、慎重に検討すべきです。

離婚でマンションを売らないのは金銭の損得以上に将来に大きな問題を残す可能性がある

離婚時にマンションを売却しない場合には、財産分与が難航する可能性が高くなりますが、それ以外にもマンションに居住を継続した人が債務者ではない場合、強制退去のリスクが長期間残ってしまいます。

さらに、離婚時の財産分与期限は離婚後から2年間と定められているため、期限ギリギリになってからマンション売却を検討した場合には、満足できない財産分与となるケースもあります。

このように、離婚時にマンションを売却しないという選択肢は、大きなデメリットがあるといえるでしょう。

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柴田敏雄

柴田敏雄(しばたとしお)

執筆者

保有資格:宅地建物取引主任士、管理業務主任者

経歴:司法書士事務所に2年、大手不動産管理会社に5年、不動産賃貸・売買の仲介営業会社に7年間従事し不動産全般の幅広い経験を積む。また外資系金融機関に2年間従事し金融資産形成や相続税の節税アドバイスを提供。不動産や金融の現場で培った経験を元に不動産系の記事を執筆している。

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